◆エキジット

6/9
前へ
/85ページ
次へ
 大きくなってこの辺りに現れる彼らは、本当に雄大で、頼もしくて、一緒に泳ごうとしても追いつけないくらい力強く海の中を突き進む。それが元々はこの手のひらサイズ。つぶらな瞳で海を見つめ、満潮を迎えると海に飛び出す。  毎年どこかしらで目にする光景ではあるのだけど、毎回ドキドキするイベント。だけど彼らは遺伝子レベルで刻まれた本能に従って、『生きて子孫を残す』という目的のもとそこにいるに過ぎない。  リーフエッジ用に写真を数枚撮って、あとは見守るのに徹することにした。  暫くすると一匹、また一匹と砂から出てきて群れになる。  波の音が近い。満潮が近付いてる。月明かりが海にぼうっと映り、彼らの行く手を照らして道を指し示しているみたい。  そして、最初の一匹が、海を目指して手足をばたつかせた。 「……っ」  思わず息を吸い込んだ。それを皮切りに子ガメたちは一斉に海へ向かう。 「一緒に行こう」  私が立ち上がって言うと、海里も続いた。絶対に踏んでしまわぬよう足元を照らし、波打ち際までの数10mを彼らに合わせてゆっくりと進む。  ここから2日は、彼らは何も食べずにひたすら泳ぐ。フレンジーという状態で、外洋に出るまでただただ真っ直ぐに沖を目指して。  生きる目的がそれだけはっきりしているというのは、少し、というより、だいぶ、羨ましい。強いものが生き残り、弱いものは死んでいくという、残酷なほどにシンプルなシステム。     
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加