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それでも願わずにはいられない。
一匹でも多く、生き残って欲しいと。
ビーチサンダルを濡れた砂に沈ませて腰を落とした。朝のベタ凪が嘘のようにざわざわと打ち寄せる波は、子ガメたちの旅立ちを誘う。
丸く照らしたその中、白く泡立つ波に先陣を切った子ガメが触れた。
流れに乗って押し返され、また進んでいって押し返されて、それでもまた進んで。
波を掴んだ。まだ未成熟な手だけど、砂よりもずっと軽快に水を掻いて、あっという間に海の中へ消えた。
その後にもどんどん続いていく。心の中で何度も『がんばれ』と呟き、また祈る。どうか、一匹でも多く。
「愛海。聞いた?」
海里が潜めた声で尋ねてきて、「なに?」と返した。
「夏生と和海。子ども出来たって」
ああ、なんだ、その話か。
「……うん、昨日寝る前に。電話きた」
「そっか」
なんとなく話題には出さないまま、朝からベタ凪にはしゃいで潜って、考えないようにしてたけど、無理な話だった。
和海は私のお姉ちゃんで、夏兄は海里のお兄ちゃんで。
彼らが結婚すると聞かされた時、私と海里は同じ空間にいて、全く同じ瞬間に、二人とも、完膚なきまでに失恋した。
「愛海はまだ?」
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