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 影の落ちた深い藍色と、光の恩恵を受けた透明のグラデーションの間、中性浮力で揺蕩っている。身一つなのに。ありえない。そう思うのに、身体はそれ以上浮くことも沈むこともしない。  腕を動かそうと持ち上げようとしても身体に纏わり付く水は重たく、呼吸も出来ないはずの口から息がごぽりと漏れ、空気の塊を変形させながら海面へと昇っていくのを見ていた。  大好きな場所なのに、抜け出したいと切に願って身を捩る。  酸素が欲しい。フィンもいる。目も痛むからマスクも。それから……。  その時、聞こえるはずのない声が聞こえて、水が一気に軽くなった気がした。  俺の名前を呼ぶ声。あの人に、よく似た声。 「海里ー!」  ほら、また。 「かーいーりー!」  打ち付ける激しいノックの音と一緒に。 「海里!来たよ!やっと来た!」  ん?ノック? 「もう!入るよ!?」 「うおっ!?」  驚いて、飛び起きて、ぱちくりと目を瞬かせた。上半身から落ちるタオルケット。カーテンの隙間から漏れ入る太陽光。開け放たれた部屋のドアの所に、腰に手を当て仁王立ちする同居人の姿。 「ま、なみ……?」 「あー、寝惚けてる」  ずかずかと無遠慮に室内に入って来て、「そんな暇ないよ」とベッド脇のカーテンを勢い良く引く。 「……っげぇ」  寝起きにはえげつない程の眩しさに両手で目を覆った。これはもう立派な暴力だ。
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