110人が本棚に入れています
本棚に追加
「情けない声」
「やめて愛海さん俺ムスカになる……」
「文句なら太陽に言ってよね」
少しずつ光に慣れて来た目が、すぐそこに立つ彼女を認識し始めた。小麦色に灼けた健康的な脚を惜しげなく晒す水色のショートパンツ。白のタンクトップ。潮焼けして表面が金茶に透けるロングヘア。
俺を見下ろしてにかっと笑うと白い歯が覗く。
「なんか夢でも見てた?」
ほんの少し前のことなのに儚いもので、もう殆ど薄れかけていた。光景も、感覚も、声も。
「……多分」
多分っつーか、完全に夢だけど。
「っていうか来たの!」
「……なんだよ。来たって何が」
「凪!もー、ベッタベタの凪!台風来てから全っ然落ち着かなかったけどやーっとベタ凪!」
愛海の言った『ベタ凪』という言葉がトリガーになって、ぼけていた頭が一気に覚醒した。
「マジ?」
「マジ」
「起きる。朝飯は?」
「作った。早く食べて行こう?私準備してる」
ビーサンをペタペタと鳴らして軽やかに出て行こうとするその背に「真洋(マヒロ)に連絡は?」と尋ねる。が、愛海は足も止めず、廊下から「しといてー!」と返ってくる。
最初のコメントを投稿しよう!