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いつもなら走れば15秒で着くビーチも、一式背負うと随分掛かる。タンクだけで13kgくらいの重さ。それにウェイト、フィン、その他色々。
愛海のタンクの下に手を添えて、重みを少し引き受けてやった。
彼女が運んでくれた予備器材やその他色々が入ったゴムボートに防水ケースを纏ったスマホを放り入れて通り過ぎ、波打ち際で立ち止まる。
「最後のチェックだ」
「うん」
フィンを小脇に抱えて、お互い向かい合う。
まずは愛海が俺に触れた。計器類の確認。各種ホースが引っ掛かったりしないか。
万が一何かあった時、簡単に身体から落としリリースすることが出来るか。手を通しながらチェックをしていく。
今度は俺が愛海に触れる。今すぐにでも入りたそうな顔をしながら、愛海は「早く」とせがむ。
「焦るなよ。大事なことなんだから」
「わかってる。でも早く!台風続きで二週間も入れなかったんだよ?」
「それもわかってるよ。俺だって早く入りたい」
ひと通り問題ないことを確認して頷き、二人海を向いて愛海が口を開いた。
「天気は文句なしの快晴、波、風共にほぼなし。海水温は波打ち際で27度だったから中はもっと冷たいと思う。長時間のダイブは要注意」
「了解。見た所大きな流れも発生してない。でも台風に乗って普段見ない危険なやつがうろついてるかもしれないから」
「お互いに死角注意ね」
「よし。9時12分。目標深度は」
「18くらい」
早口でまくし立て、左手のダイバーズウォッチに視線を落とし、握った拳。愛海の右のそれとノールックでフィストバンプして息を吐く。
「行こう」
声を重ねてマスクを付け、シュノーケルを口に沖の方の瑠璃色へと歩き出した。ビーチからのエントリー。波は優しく穏やかで、まるで鏡面だ。湖かと見紛う程の10月のベタ凪の朝。
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