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 じゃぶじゃぶとブーツを履いた足を砂の上で滑らせて進む内に、腰まで浸かるようになって背中が僅かに軽くなった。  重力と浮力の境界線。もう少し。  もう少しで、この重みから解放される。  愛海の足がフィンを履いた。身体を浮かせ水を蹴って進む。十分な深さになって俺もフィンを装着する。そして水平線を眺めて、地上に別れを告げるように砂を蹴った。  頭を完全に浸して二週間ぶりに見る海中の青。透明度は高く35m程。長いフィンの強力な推進力を得てふたり、泳ぐ。  凪いだ波の穏やかさもあっていつもより早く近付くダイブポイント。折角だからもう少し遠くから潜りたい。愛海の手首に触れて気付かせた。  ハンドシグナルとなる手振りで『もっと行こう』と向こうを指を差すと、愛海は指で丸を作り『OK』と応える。  海水温は若干冷たい。台風が海を混ぜていったせいだけど、潜る分には問題ない。もっと冷たい時に潜ることだっていくらでもある。  眼下に広がり始めたサンゴや海藻。イソギンチャク。その上を、間を、自在に泳いでいく色とりどりの魚達。  いつも俺たちが目印にしている大きなテーブルサンゴを超えると、水深はなだらかに深さを増して15mほどになる。  愛海が俺を振り返った。指を下に向け、『潜る?』と首を傾げ言う。俺は頷いて、シュノーケルから口を外し、タンクからエアを吸う為のマウスピースを咥えた。  愛海のそれも確認して、フィンの先から頭まで身体を一直線にする。  そしてふたりで同時に左手でインフレーターを持ち、BCに入っているエアを排気した。
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