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全部抜いて、身体に入っている空気も全て吐いていく。腰に巻き付けているウェイトが手伝って、少しずつ身体が海に沈んでいく。
1m。2m。3m。
耳抜きのぶちぶちという音と水の音、呼吸と鼓動の音だけが聞こえる。愛海を窺った。問題はなさそうだ。
4m。5m。
魚達は突然の侵入者である俺たちを警戒したり、しなかったり。海底の傾斜に合わせ、一旦水平移動。最早言葉もいらなくなる。
6m。7m。8m。
人工物に溢れた地上なんてさながら模型。ここには俺たち以外、自然に出来たものしかない。
9m。
水深計を確認して周囲を見渡した。青が濃くなる。海底に沈む白い砂が、海流に沿って不可思議な文様を描く。
サンゴにフィンが触れそうになってそれ以上の意図的な潜行を止めた。姿勢を翻して海底から空を見る。
太陽が照りつけ輝く海。
10m。
俺を呼ぶ声などどこからも聞こえなかった。
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