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「あ、あの!」
伸介はその男の顔をまじまじと眺めるも、全く覚えのない顔であった。
「……誰?」
と高尾に呟くも、彼もさあ? という顔をしている。
「ぼ、僕、今年文芸学科に入りました、一年の宇多山瞬と申します! あ、あの、僕、高尾さんがゼミ誌に書かれていた『ドラゴンクエスト』に感銘を受けまして、そ、その……ファンになりました!」
説明しよう。文芸学科の生徒は年に一度、ゼミ誌と呼ばれる学内で発行される本を各ゼミ毎に一冊作る(文芸学科の生徒は十人前後毎に、それぞれ教授の下についてクラス分けの様なものが行われる。その一グループをゼミと呼ぶ)。
本の内容は小説、エッセイ、批評など様々なのだが、無料かつ、誰でも自由に持ち帰る事ができるのだ。大学説明会などでも例外ではなく、芸術学部を志望する高校生などもその本を読むことができる。
「ドラゴンクエスト」とは日本を代表するロールプレイングゲーム……ではなく、高尾がそのゼミ誌に載せた小説のタイトルなのであった。
「ああ、あれ読んだんだ?」
「はい! もう一日に三回は読んでます! 携帯にも文字を書き写してどこでも読める様にしました!」
「すげーな……」
「もう本当に人生が変わるくらいの衝撃を受けました!」
「ああ……ありがとね。とりあえず俺らラーメン食いに行くから、じゃあね」
「あ、わ、わかりました! またぜひよろしくお願いします!」
ゆる過ぎるこの大学のキャンパスには似つかわしくないほど、深々とお辞儀をする宇多山瞬という一年生を尻目に、二人は所沢校舎を後にした。
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