第5話(2巻序章)「夢より素敵な」

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「おい、そこのサントコ野郎!」  伸介がはっと意識を現実に戻すと、目の前にある男が立っていた。 「……なんだよ高尾か」  伸介がそう呼んだこの男、高尾は伸介と同じ文芸学科の三年生で、ひょんな事からゲームや漫画、映画好きだという事がわかり、共通の趣味に話題が事欠かないこともあって、気が付くとよく一緒にいるようになっていた。  伸介は三年生になり軽音楽部を辞めてから、今まで近寄らなかった大学の文芸学科棟に顔を出すようになった。そこの溜まり場には漫画があり、ゲームがあり、いわゆるオタクな連中が沢山いたことから、身近な所にとても居心地の良い空間があった事を今更知って彼はとても後悔した。  その中でも、高尾は気が合っただけでなく、ギターやキーボードなど楽器が弾けて音楽にも精通していた為、「こいつはなんか面白い事をやってくれる奴に違いない!」と伸介は直感めいたものを彼から感じていた。 「ったく、お前もサントコじゃねーか」 「おい伸介、ラーメン食ってファミコンでもやろうぜ」 「……授業は?」 「次は江古田で五限だから、時間あるっしょ」  サントコは基本、午前中に授業が終わる場合が多い(朝起きられなくて単位を落としているから)。そして、午後からは江古田校舎に戻って授業を受けるのだが、所沢校舎から江古田校舎までの移動時間もあるので、大抵は時間の余裕を持って授業のスケジュールを組んでいる者が多い。そうでなくともサントコの学生は皆、基本ダラダラしているのだった。 「じゃあこの前見つけたつけ麺屋でも行くか?」  そう言って歩きだすや否や、二人の前にある男が立ちはだかった。
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