第5話(2巻序章)「夢より素敵な」

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 伸介と瞬はざわついた学食を飛び出し、大学のバスで航空公園駅へ。そこから西武線の電車に揺られる事約三十分、もう一つの校舎がある江古田駅へ辿り着く。  道中、瞬は自身が今まで読んできた本の話や、自身の好きなゲーセンのアーケードゲーム、特に格闘ゲームが好きだという話などを聞かせてくれた。彼の話し方は実に論理的なのに分かりやすい言葉を使っていて、良く知らないジャンルの話でも興味を引いてしまう様な、そんなインテリジェンスに溢れる魅力があった。  伸介は彼と話せば話すほど、 「仮に同じ質問をされても、俺は彼みたいには上手く答えられないな……」  という羨望と劣等感を、二つ年下の彼から感じつつあった。そしてその感情は高尾や島田から感じていたものとほぼ同類のものであった。  自分はロックスターになると意気込んで上京したものの、今のところ何も形にできていない。軽音楽部という小さな社会からは「自分には合わない。あいつらが間違っている」と逃げ出し、そして島田という才能を持った親友にも拒絶され、今もまた、高尾、そして出会って間もない二年も年下の男の才能に恐れを抱きつつあるのだ。  伸介は駅から家へ向かう途中、段々と気持ちが 落ち込んでいくのがわかった。自分が呼んだものの、高尾と、高尾の才能に惹かれる瞬が家に来たら、家の中ですら劣等感と孤独に苛まれるのではないか……。  家の鍵を回しながら、伸介はどんよりとした気持ちに震えそうになった。
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