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「私達二人ともあなたと同じクラスだったの。この人は山本隆太。私は井上望。ただし今は山本望なんだけど。フフッ。ねえ、覚えてない?」
「覚えてるよ」
そう答えた森田の声は妙に不自然で機械的な響きだった。望がうれしそうな笑みを浮かべて言葉を続けた。
「森田君も東京に来てたのね。私達は大学からこっちで暮らしてるの。別々の大学だったけど。なんとなく付き合いが続いて結局結婚しちゃった。森田君は結婚は?」
「……いや」
「じゃあ、彼女は?」
「……いや」
そのあと、望は森田の近況を訊いた。森田は話しながらも自分の意識がどこか別の場所にあるような感覚を覚えていた。森田の話が済むと、望が話題を変えた。
「私達ね、こっちで喫茶店やってるの。あんまり流行ってないけどね。今時はこういうセルフなカフェにお客さんが流れちゃって。今日は休みなの。で、ちょっと偵察。今度寄ってみて」
望がそう言って、バッグから出した名刺のようなカードを森田に渡す。それは望達の店のカードで、小さなマップも描いてあった。望は隆太と目で合図しあうと、自分達のトレイを手に立ち上がった。
「じゃあ、私達行くから。きっと来てね」
そう言って行きかけた 望達に、森田は声をかけた。
「なあ」
振り返った望が首を少し傾げて森田を見た。
「お前達、死んだんじゃなかったっけ」
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