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そんな事を明坂が思っているとは意にも返さない様子で、大橋は少し遠目だからか、目を細めて新聞記事を見つめている。
「毎日目を通しているようですが、新聞なんて見て面白いですか?」
いかにも現代っ子な質問だ。
「面白いとかそういう問題ではなくてだな」
「ふーん」
向こうから聞いてきた割に気のない返事だ。仮にも明坂は大橋の上官であり、指導役でもあり、尊敬される立場のはずだが、完全に舐められている。これが他の指導役が大橋の担当ならば、このゆとり新人も違った態度をとったのだろうか。そう思うと自分の未熟さを突き付けられたようで胸がシュンと萎む感覚がした。
もう無視だ、無視。開き直って荒々しく新聞をめくる。と、小さな記事が目に入った。そこにはとある人物の名前と、その人物の顔写真の代わりに数冊の本の表紙が見えるように少しずつずらして重ねられた白黒写真が掲載されている。
「まだ見つからないのか」
「何がですか?」
隣に並んだ自分の席へと座り、両手で暖をとるように持ったマグカップからコーヒーを啜り始めていた大橋が椅子のキャスターを転がしてこちらに近づいてくる。無視を決め込もうと思ったものの、これは思わず声に出した自分が悪い。
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