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「いや、でも食材も気まぐれじゃないですか。あの日卵の山があったんですよ? それを店長どうにかしろって……どうにかしましたけども。」
あの日は店がオムレツ専門店なのかと思うくらい、メニューがオムレツ一色だった。
「廃棄直前だから安かったんだって。うちの厨房メンバー天才ばかりでよかった。」
店長が言うと、全員まんざらでもない顔をした。
実際、ハチノスの食材のふり幅は普通の店では不可能で、おおらかなお客さんと手書ボードと、天才的な料理人が支えている。ハチノスの常連さんたちは、一期一会と思って毎回メニューを吟味する。
「あ、店長。俺もうすぐ試験なんで夜無理です。」
「もうそんな時期か……うわ、予約と重なってるな。」
店長の眉間にしわが寄る。
「断ろうかな。」
「店長、自分夜も出ます。」
眉間にしわを寄せて腕組みをした店長に、恵は言った。
「だって、夜のお客さんは店長の大事な人たちなんですよね。自分だって勤めて半年です。」
「いいけど、怖い人もくるよ? 」
うっと詰まったが、恵みは顔を上げた。
「だ、大丈夫です。これでも、前も接客業だったんですから。」
店長はまだ悩んでいるようだったが大上が言った。
「店長、新しい人がフロアにいると雰囲気が変わっていいじゃないですか。お客様も喜んでくれると思いますよ。僕もサポートしますし。」
店長がぐねっと身体をひねって結論を出した。
「じゃあ、青戸君お願いします。」
「かしこまりました。」
初めてのディナータイムに俄然やる気が出た。
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