9人が本棚に入れています
本棚に追加
「ここのデザート本当、最高なの。」
大上が椅子を引くので、恵もはっとして椅子を引いた。
「新しいスタッフさん。ディナーも出てるんだね。」
にこっと笑って恵の引いた椅子に座った。
大上が引いた椅子に、濡れた音がして背もたれが少し沈んだ。
「はい、青戸と言います。」
「青戸さん。よろしくね。私夏はここでバイトするの。」
店長と同じ顔なのに、愛想がいい。ふんわりとした笑顔に圧倒される。
「雪ちゃんが来ると回転率悪くなるんだよね。」
「でもみんなオーダーしてくれるじゃない。」
ぱちっとウィンクをする。自分の可愛さをよくわかっているらしい。
一旦厨房に行き、お友達が見えないことを恵は言おうか言うまいか迷ったが、大上が先に言った。
「青戸君は雪さんに配膳を。」
「あ、ありがとうございます。」
雪さんの明るい声と店長の声ばかりがして、空白の席からは時々ぺちゃぺちゃという濡れた音やごぽごぽという排水管が詰まったような音がするが、形も影も見えない。
ただ、料理は減っている。香草のサラダも、ジャガイモのビシソワーズも、冷静パスタもきれいに貝殻だけ残して片付いていく。ついにデザートになった。
「青戸君、ジェラード何にするか聞いてきて。」
大上は藤山を手伝ってデザートの皿を盛り付ける。繊細な飴がけは、大上にしかできない。ひくっと引きつる口を押えて、恵は向かった。店長は山崎が書いた、店長の似顔絵とジェラードの種類が書かれたボードを見せている。
「今日はジェラード何にしようかな。迷うな~。」
雪さんが誰もいない席を見て言った。

最初のコメントを投稿しよう!