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中津仁彦(なかつ-まさひこ)は、同級生の浅間梅子(あさま-うめこ)の手を引いて走っていた。
見慣れた地元の街のはずだったが、いつもは通らない路地であったから、仁彦には別の街に思えた。
その非日常感が、仁彦の息を荒くする。
高校の制服のネクタイが邪魔で、緩めてシャツから引き抜くと、手に持つのも鬱陶しくて道端に投げ捨てた。
あとで回収するのが面倒だとか、そんなことを考えている余裕もなかった。
息を切らしながら、ひたすら走った。
「はぁ、はぁ」
背後遠くには、悠然と歩く白髭の老人が辛うじて見える。
仁彦は、普段ジジイと罵る皺だらけの男から必死になって逃げていたのだ。
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