◎第10章 アブラハムの幕舎

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 母は私の目を見てはくれません。  足元の、先程まで蔦の生えていた地面を見つめて、言葉を擲ってくるのです。 「屁垂れというのは?」  当然、殿下のことでしょう。  頷くのを待つまでもありません。 「仁彦。トーマンが彼こそフィリウスの最高傑作だと言ったわ。その力を恣意的に用いれば、人類は彼に平伏すだろうと言った。だから私は、梅子、あなたに彼に尽くすように言った。いずれ世界を支配下に治める者として、彼を殿下と呼び、立派に教育するように言い伝えたわ。」  しかしてどうして、母から殿下の酷評を聞くのは、無性に腹が立ちます。
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