◎第10章 アブラハムの幕舎

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「けれども彼は非常につまらない男だった。なかなか力に目覚めないばかりか、度胸もない。思慮も浅ければ秀でた所の一つもない。とても上に立つ者とは思えなかった。トーマンがフィリウスを見捨てたのも納得ね。最高傑作たるFが、あれなんだもの。今やもう、あなたが彼に従う意味はないわ。『勅命』の合言葉も、もう終わり。」 「『勅命』、ですか?」 「そうよ、『勅命』。私は貴女を彼の玩具にする気はなかった。彼の世話役として付けたかっただけ。だから普段から言う事を全て聞くような操り人形にはしたくなかったのだけど、彼が『どうしても』という時に限っては言う事を必ず聞くようにした。その『どうしても』って時の合言葉が『勅命』。私が決めてあげたのよ? あなたは覚えてないでしょうけど。」
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