0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
夢を見ているとしか思えない。
その女の子は、日本人形のような髪型をしていた。
今風に言えばショートボブか。
前髪は真横に切りそろえられている。
年齢は僕と同じか少し下くらい。というか年齢不詳だ。見た目は幼げなのだが、彼女の瞳は大人びているというか……。
何よりも目を引くのは、彼女がまとっている衣服だ。
和服である。淡い桃色の生地に桜の花びらの模様が散りばめられていた。
「ようやく目覚めたか」
その声音は幼げだが、口調は大人びている。
「ええっと……誰ですか?」
これが夢の続きだとしても、そう尋ねずにはいられなかった。
「妾のことは吉野と呼ぶがよい」
『吉野』というのは名字だろうか。それとも名前だろうか。
「呼び方はともなく、何者なんですか?」
戸締まりはしていたはずだ。
それなのに、どうやって入ってきたのだろう。
何のためにこんなことをしたのだろう。
「桜の精――とでも思っておけ」
はい。夢決定。
これが夢でなかったら怖すぎる。
変な女の子が僕の部屋へ忍び込んできて、寝ている僕の胸元で正座をしていたのだから。
「お主の力を借りたい。それゆえにこうして忍んでまいった」
「えっ……? 僕の力を……?」
「女との交わりを知らぬ少年にしか頼めぬのだ」
「どうせ僕は童貞ですよ」
「妾に助力してくれたら、『男』にしてやってもよいのだぞ。この妾が相手をしてやるのだ。ありがたく思え」
何と。
この女の子がえっちをさせてくれるというのか。
「悪い話ではあるまい。お主のように風采の上がらぬ男など、この先ずっと女子に縁がなかろう」
そこまで言われるほどでも……あるかもしれない。
「で、僕は何をすればいいんですか?」
危険なことだったら即座に断るつもりだ。
「それは追々話す。あまり時がないのでな」
「いや、待ってくださいよ。まだ引き受けるとは……」
強烈な眠気の見舞われ、僕の意識は途切れた。
最初のコメントを投稿しよう!