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 おばあさんは、持っていた鞄から封筒を取り出した。 「これを、あなたに」  それは、彼女からの手紙だった。  それは、彼女からの遺言だった。  彼女の母であるという老婦は、言った。 「ある人を亡くしてから、あの子は精神的に弱ってしまったみたいで……」  彼女は年々、心と体をすり減らして、病院へ通うことが増えていったそうだ。  それでも、と老婦は言った。 「四月一日だけは毎年、楽しそうに出かけていってたんです。本当に、そう、嘘みたいに元気そうで(・・・・・・・・・)」  それこそ、僕の見てきたものが、嘘だったのかも知れない。  どうして亡くなったんですか、と問うと、老婦は首を横に振る。 「手紙を、読んでみて下さい。誰も目を通していませんから……」  透明の膜を透過して、夕陽が差し込み始める。  制御装置が働いたのか、ビニールシートは暗幕に包まれて、代わりに偽物の太陽光が桜の木と、僕たちに向かって注がれる。  僕は、封筒を開けて、手紙を読み始める。  始めに書かれていたのは、二年前の四月一日に行けなくてごめんという謝罪だった。  それから、僕にとって目を覆いたくなるような文章が続く。     
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