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部活の帰り道だった。中学から自転車をこいでいたのだけれど、その道中で急に大雨が降り出した。気まぐれな春の嵐だろうか。前に進むのが億劫になるほどの雨と風に見舞われて、僕は雨宿りのために、近くの公園にあった『桜ドーム』へと入ることにした。
ドームの中心には、桜が咲き誇っていた。
外からでは、激しい雨とビニールシートでぼんやりとしか見えなかったけれど、こうして実際に目の前にすると、圧倒的な美しさに目を奪われる。花弁に宿す、その淡い桃色は、春という季節を体現しているようだった。そして、自然と散ってゆく花びらは、逃れようのない死を表しているみたいで、儚い。全ての生命の根幹を、まるでこの桜の木が背負っているみたいに思えた。
しばらく桜を眺めていると、僕以外にもう一人、女の人がいることに気が付いた。
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