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 彼女は、春という季節には似つかない、黒い服を(まと)っていた。そして、僕と同じように水浸しになっていて、腰まで降りている長い黒髪から水滴が滴り落ちていた。年上だろうか。クラスの女の子の誰よりも大人びているように見える。美しい顔立ちをしていた。はらはらと彼女の背景で舞っている桜の花びらが、良く似合っている。けれどそれは、(はかな)く散っていってしまいそうな(もろ)さみたいなものも抱えているように見えた。 「あなたも、雨宿りですか?」  気付けば、僕は彼女に声をかけていた。  彼女は、僕を一瞥(いちべつ)してから、桜へと視線を戻す。 「そう。雨宿り」  雨にかき消されてしまいそうな、淡い声だった。 「しばらくは、やみそうにない」  そう言って、彼女はずっと桜を見つめ続ける。その横顔を見ていて、彼女が泣いていることに気が付いた。てっきり、雨で濡れているのだとばかり思っていた。  彼女の手には、数珠が握られていた。 「誰か、……お亡くなりになったんですか」  僕の問いかけに、彼女は小さく頷く。 「大切な人を、亡くしたの」 「恋人、ですか」 「幼馴染(おさななじみ)だった人なの。男の子だったんだけど」  彼女は、その幼馴染を想うように、目を(つむ)る。  ドームを覆う透明な膜に、強く、強く雨が降り注いで、バチバチと音がする。 「僕で良かったら、お話聞きます」  彼女のことを、見ていられなくなっていた。  一時間も、十分も、経っていない。それなのに彼女は、どんどんと萎れてゆく。まるで、この桜の木に命を吸い取られているみたいだった。 「赤の他人だからこそ、言えることもあると思うんです」     
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