2人が本棚に入れています
本棚に追加
2
あれから一年という月日が流れて、四月一日を迎えた。
この日は、曇り空だった。雨は降らないことを信じて、傘を持たずに自転車をこぐ。
部活は、家族で用事があると適当な言い訳をして休みを取った。そして僕は朝一からずっと『桜ドーム』の桜の木の下で彼女のことを待っていた。あの日から、彼女のことを忘れたことは一日たりともなかった。忘れてしまえば、桜の花びらみたいに、散って消えてゆくような気がしていた。
お昼の十二時を過ぎた頃だった。
見覚えのある、黒服の女がドームへと入ってくる。間違いない。一年前にここで出会った彼女だった。手を挙げると、彼女も片手を挙げて応えてくれる。
「本当に待ってるなんて、思わなかった」
去年よりも、澄んでいて通りの良い声をしていた。
「嘘じゃないって言いましたよね」
「若気の至りかと思うじゃない。君って中学生か、高校生でしょう」
「今年で中学三年生です」
「そっか。やっぱり成長期だね。一年経つと大人びて見える」
「嘘じゃないですよね」
「嘘じゃないよ」
彼女は微笑む。一年前には見れなかった表情だ。
それから僕たちは、満開の桜に向けて手を合わせた。
最初のコメントを投稿しよう!