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3-5
それから僕たちは、毎年四月一日に、満開の桜の木の下で会うようになった。
十二時を過ぎた頃に顔を合わせ、他愛のない話をする。一年という時間が、一日に凝縮されて、いつの間にか僕にとって、とてもかけがえのない時間になっていたように思う。
彼女に出会ってから、五年後のことだった。
高校の卒業式の日に、一人の女の子から告白された。
同じ部活の女の子だったのだけれど、好きだと言われた瞬間、頭に思い浮かんだのは、四月一日に顔を合わせる彼女だった。
この時になって、ようやく僕は彼女に惹かれていたのだと気がつく。
ごめん、と告白してくれた女の子に頭を下げる。
どうして、という問いかけに、僕は素直に答えた。
「好きな人がいるんだ」
次の四月一日、彼女に会ったら告白をしよう。
彼女にとって、幼馴染の存在が一番であることは、彼女と言葉を交わしていれば嫌でも分かった。けれど、それでも良かった。二番目でも良い。彼女のそばにいて、少しでも彼女と笑い合えるのならば、それで。
そして、四月一日を迎える。
僕は、いつものように朝から満開の桜の木の下で、彼女を待っていた。
お昼の十二時を過ぎる。いつもならもう来ていてもおかしくないのだけれど、彼女の姿はない。何か事情があって遅れているのだろう。そう思って、僕は待ち続ける。
やがて、夕陽が差し込む。ドーム内にオレンジ色の光が乱反射して、淡い桜の花びらは飲み込まれてゆく。
結局その日、彼女が来ることは、なかった。
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