第8話  【side――Y.S】

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「……イエス? オア、ノー?」 「……い、いえす。……行きたい、です」 あっそう、とまた淡々とした口調での返答。 そして目の前の手がゆっくりと遠ざかっていく。 視界が元に戻ると、まず目に映ったのはケータイを片手に持った高槻さんだった。 嬉しいやら恥ずかしいやらで緩みきった口元を慌てて手で隠す。 こんなの無表情を貫ける方が無理だ。 口元を手で覆い、なんとか冷静さを呼び戻している最中に制服のポケットに入れていたケータイが振動した。 片手で口を押さえたまま、もう片方の手でケータイを取り出す。 送られてきたのはどうやらメッセージのようだ。 送り主を確認せずに開くと、隣にいる人からだった。 【演奏会のソロが上手くいったら俺のおごりね】 「……」 私はそのメッセージを読み終えるなり隣を怪訝な目で見上げる。 その話は結局高槻さんには明かしていない。話したことがない。一体どこからその情報を仕入れたのか。 私の視線に気づいた高槻さんが悪戯っぽく口元に笑みを浮かべて、ちらっとだけ私の顔を見るとまたケータイの画面に向き直る。 ブー、と私の手のケータイが震えた。 【あんま彼氏っぽいこと出来てないから、これぐらいはしたいんで失敗しないでね】 【せめて割り勘にしましょうよ】と私が送る。 【俺が送った文もっかい読み直してくれます?】 【読んだ上での提案ですよ】 【やだよ。譲れません】 【……お言葉に甘えて良いんですか?】 【好きな子には甘えられたい性分なんで、いくらでもどうぞ】 「……もう!」 「声に出てますよー」 私はまた隣をいつもより少しきつめにじとりと睨み付ける。 高槻さんはそんなささやかな攻撃はものともせずに澄まし顔のまま。……いや、口元をよく見ると面白がってるのが分かる。だって口角が上向いてるもん。 押しに弱かったり、急に押してきたり。 やっぱり。 好きになってもこの人のことはよく分からない。 でもそれでいい。 これから色々なことを二人で知っていく予定だから。 なんて。 既に、高槻さんには私のことをよく知られているような気もするんだけどね。
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