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「マキちゃん助けて!」
放課後。誰も居なくなった教室に忘れ物をとりにきた私は、唐突に聞こえてきたその声で思い切り飛び上がった。
今机の中からとりだした、忘れ物でもある大きめのノートを思わず落としかけた。
「えっ、なに!?」
「ごまかしといて!」
教室の前のドアから飛び込んできたのはクラスメートの笹原君だった。
笹原君は入ってくるなり、その勢いのまま教室の後ろまで駆け抜け、そして。
掃除用具入れに閉じこもった。
「……え? なに?」
答えらしい答えを聞いていない。
言われたのは一言、『ごまかしといて』のみ。
駆け込み乗車のごとく駆け込んできた辺りをみると、おそらく逃げてきたのだろう。
なにから?
「笹原!」
掃除用具入れを見ていた私は、また唐突に聞こえてきた声にびくりと肩を震わせる。
笹原君と同じように、誰かが教室の前から現れた。
その人は私の姿を見るなり、「脅かして悪かった」と謝ってくれた。厳しそうな人だけれど、その一言を言ってくれる辺り、厳しいだけの人ではないのだと思う。
「ここに笹原が来なかったか?」
あぁ、なるほどと私は得心する。
『ごまかしといて』とはこれのことか。
「笹原君なら入ってきましたけど、すぐ後ろのドアから出ていきましたよ」
「そうか。ありがとう」
おそらく先輩であろうその人は、私に小さく頭を下げて教室を出ていった。
礼儀正しく親切な人を騙してしまったのは少し心が痛い。
私はその人が教室の前を通り過ぎると、すぐに掃除用具入れを開けた。
身を小さくした笹原君が箒やちりとりと同じようにそこにしまい込まれている。
「ばっか! 開けるの早いだろ!」と小声で抗議された。
それに関しては異論がないけれど、あの人を騙してしまったせめてもの償い。これで気づいてくれたらなぁ、と思ったのだがそんなことはなかった。
先輩だと思われるあの人は通り過ぎてしまった。
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