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「おお、にゃあちゃんも、こんな年寄りの散歩についてきてくれるのかい。ありがたいねえ」
「にゃあん」
この時期に同じ姿の野良猫がやってくることは無かった。どの猫とも一期一会で、そう、まるで妻が猫に化けてわたしのようすをうかがっているのかと思う程に。
「あれだったかねえ。缶のよりも簡単に開けられるパウチパック、とやらのほうが、美味しいのだったかねえ」
「にゃあ」
「いつお客さまが来てくれてもいいように、たくさん買っておこう」
「なー」
「おや、ひとつでいいかい?」
「にゃあ」
肯定と否定が声色や鳴き方でわかるのは、毎年、毎回のことだから。
死んだらもうこういう首を傾げられそうなやりとりが出来なくなる。けれど、妻のお迎えを断ることもないだろう。お客さま用の食事と、できるだけ立派な用紙に昔ながらの筆ペン、そしてわたしのための食糧を買って、ひいひい言いながら持って帰る道には、やはり今日のお客さまの姿がある。
食べ終わって、書き終わってすぐどこかへ旅立つのだろう。そう思っていたわたしを良い意味で裏切った野良猫は、わたしが布団で静かに永い眠りにつくのを見守るかのようにして、枕元で丸くなってくれていたのだった。
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