時は来たり

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 とくに観るつもりもなく、音が無くて寂しいという理由だけでつけっ放しにしたテレビは、花見の場所取り係についてのインタビューを放送している。やれ面倒だ、やれ迷惑だ。ずいぶん遠くなった耳だけで聞いていれば折角の花も曇るような発言ばかりで居た堪れない。最近の若者は、などと言うつもりはないが、そうまで負担をかけて、かけられて観賞する花にどれほどの価値があるのだろう。最近の年寄りには答えが出せなかった。  まだまだ続くのだろうそれから庭へと意識を移し、あまりにも周囲から悪く浮くような古ぼけた外見になってしまったが故に息子夫婦はもちろんのこと、孫も曾孫も遊びに来なくなった平屋の一軒家の縁側に腰をおろす。今日の日射しは年寄りには少々厳しいものはあるが、そんなことはお構いなしにやってきた小さなお客さまを見て見ぬふりは出来ない。 「ごめんねえ。すっかり買い物に出るのも億劫で、にゃあちゃんのご飯もうちにはないんだ。空が焼けてきたら頑張ろうとは思うけれど、今はあげられないよ。ごめんねえ」 「にゃあ」  喉が渇いていると気付くのは、いつだって誰かに、なにかに声をかけたときだった。わたしが重い腰を年寄りくさい掛け声とともにあげると、まだらに染まった野良猫は餌をもらえると思ったのだろう。ぴょん、と縁側に飛び乗ってそのまま毛づくろいを始めた。勘違いさせてしまったのは、今月が始まって三週間経った今日でなんと十五回目となる。毎日のように庭に植えた桜の木の下でわたしを待ち伏せる理由は、今のところ食事以外に心当たりはない。  せめてもの気持ちとして、今は亡き妻が箱から出さずに飾っていたとっておきのお椀に水を注ぎ、猫の正面にそっと置く。わたしのぶんはそれから用意となる。  ポットのお湯もまた沸かす必要がある。忘れないうちに今やろう、と動かした手を止めたのは、猫のひと鳴き。
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