「恋」短編コンテスト第2回「先輩」

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先輩は可愛い。 これは、この学校に通う大抵の人間は知っていること。 けれど、その先輩が、 実は、とても格好良い人だということを知っているのは、 多分、自分だけだ。 「お、みゆきちー、おはよう」 「おはようございます。先輩」 キコキコと聞こえてきた自転車を漕ぐ音に振り返れば、自転車置き場に現れた先輩が、いつものオレンジ色の自転車をいつもの場所へ停める。 ガチャン、と自転車を停めた先輩を見て、先に歩き出した自分に、「あ、ストップ!」と先輩が、私の肩からかけていたカバンのベルトを掴みながら呼び止める。 「何ですか…」 早朝ということもあり、先輩とは違い、自分のテンションはそこまであがっていない。溜め息まじりに、引き止めた先輩を見やれば、「ちょっとそこに真っ直ぐ立ってよ」と笑顔を浮かべた先輩にそう言われ、「面倒…」と呟く。 「立つだけじゃん!」 「どうせまた身長比べるだけですよね?そんな伸びてないですって」 「昨日はめっちゃ寝たから伸びてるはず!」 「はいはい、先輩、先行きますよ」 「あ!こら!」 朝一番に顔を合わせる度に、先輩は私との背比べを要求してくる。 始めのうちは可愛いらしい先輩の、可愛いらしい行動だなぁ、と素直に要求に応じていたのだが、こうも毎日が続くと段々と面倒になってくる、というか、何というか。 「もー、みゆきちは何でそんなに面倒くさがりかなぁ」 「そもそも、目で見ただけで私を抜くほど、一晩で背が伸びてれば先輩、学校来れてないと思いますけどね。激痛で」 「うそ。マジで」 「やっぱアホなのかな、この人」 はぁぁ、と呆れて大きな溜め息をついた私に、「まぁ、いいじゃんか。ほら、立って」と先輩は懲りずにニカッと笑いながら私の手を掴む。 掴まれた箇所が、熱い。 始めの内はなんとも思わなかったこの行動に、胸の中がざわついて、先輩に触られた場所が熱を帯びてくるようになったのは、ここ数ヶ月のこと。 けれど、目の前の先輩は、私がそんな風に思っているなんて、気づいてもいない。気がつくはずも、ない。
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