「恋」短編コンテスト第2回「先輩」

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「あー、かず先輩、また三橋先輩に可愛がられてるー!」 「かず先輩可愛いー」 「赤くなってるー!」 「かず先輩、小動物みたい!」 「ネコっぽくない?」 「そうかも!」 朝練を終えた生徒たちが、入り口でじゃれ合っている先輩と三橋先輩を見て楽しそうに言いながら歩いていく。 「あ、おい!こら!俺は小動物じゃねぇぞ!」 生徒達の会話が聞こえた先輩が、三橋先輩の手からどうにかこうにか逃げ出しながら、生徒へと声をかけるものの、生徒達は先輩の言葉に笑顔を浮かべたまま歩いて行くだけで、「人の話を、話を聞けぇ!」と先輩が叫んでも反応は戻ってこない。 先輩は、可愛い。 周りに比べて、少し背が小さくて、顔は童顔で。 「おい!みゆきち!」 ガタンッ、と部室のドアが派手に開かれる。 「先輩、煩いです」 「あ、すまん、じゃねぇし!なんで先行くんだよ」 はぁっ、はぁっ、と息を切らしながら現れた先輩は、多分、ここまで走ってきたのだろう。 「別に、先輩と約束なんてしてないですし」 我ながらに、可愛く無いと、自覚している。けれど、口をついて出てくる言葉がコレなのだから、仕方が無い。 「約束って、お前なぁ」 呆れたような先輩の声に、ふい、と横を向けば、ふっ、と何故か、先輩の短い笑い声が聞こえ、視線を戻す。 「なに、妬いてるのか?」 妙に自信満々な声と、やけに格好つけた表情は、いつもは可愛い先輩が、たまに見せつけてくる表情で、その声に、心臓の奥のほうが、ぎゅ、と掴まれたような気持ちになる。 「や、妬いてません」 「ははっ」 まるで、真夏の太陽みたいに、じりじりと、熱せられているかのようで、頬にだんだんと熱が集まってくる。 「なぁ、みゆきち」 真っ直ぐに私を見つめる先輩の瞳が、金縛りのように、私の身体の自由を奪っていく。 「俺は、可愛い?」 ぎゅ、と私の手を握りしめて言う先輩の童顔の顔は、普段は、下がり気味な目元も、こんな時ばっかり、キリッとした目もとになって、いつもは明るさばかりを宿している瞳も、熱がこもっていて。 可愛いなんて言葉は、全く似合わない。
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