第三夜

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市民病院の病棟の玄関は、外の喧噪が嘘のように静まり返っている。 初老の守衛は、クロスワードに熱中していた。 わたしは、灰色の階段を上った。 「トモくん…!トモくん……」 二階の手前の部屋をのぞくと、ベッドの小さな男の子のうえに若いお母さんが泣き崩れている。 お父さんは蒼白な顔だ。 「……お姉ちゃん」 わたしの手を、誰かがそっと握った。 ちいさくて冷たい手。 「どうしてママは泣いているの……?」 青い手術着姿の男の子だ。 「大丈夫。トモくんは、じっと待っていればいの。誰かが来てくれるから」 「誰かって、だあれ?」 「おばあちゃんとか…神さまとか…」 「あ!お爺ちゃんだ!」 廊下のはしで老紳士が帽子をとって会釈をしながら、手まねいている。 「でもママが……」 トモくんは、ぐずっている。 わたしはやさしく手をほどいて部屋を出て、また階段を上った。
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