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(なるほど)
『イズミ、また会おう、桜の樹の下で』
空襲で粉々になった瓦礫の下で、ヒロシはわたしの手を握ってそう言った。
グラマン戦闘機の焼夷弾は、工場を大きく斜めに分断した。
わたしはいつも通り一階で、友だちとボルトの洗浄をしていた。
轟音とともに、天井は砕け飛び、まわりは炎につつまれた。
『キャアアア……!』
『うううっ……助け……て…助けて……』
悲鳴とうめき声。
気づくと、床に倒れていた。お腹が熱くて、つぎに寒くなった。
もうもうとあがる土埃。
なにも見えない。
『イズミッ!!イズミッ!!』
ヒロシはわたしを見つけた。
ほんとうに飛行機乗りの目なんだな……と思った。
『みんな地下に逃げろーーーッッ!!!はやくーーーッッ!!!またくるぞーーーー!!!』
先生が必死に怒鳴っている。
ヒロシは嗚咽しながら、わたしの手を握っている。
逃げて、と言ったつもりだった。
ほんとうに声がでたかどうかは覚えてない。
『桜が満開のころ、迎えにきてくれ。また会おう』
『かならず……かならずだ』
震える声を、ようやく思い出した。
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