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第二夜
「昨日のは、なんだったのかなあ……」
夕方なのに、白昼夢?それともわたしの見間違いで、ただの痩せた子どもだった?
「うう…失敗したなあ」
どうしてか今日も昼寝をして寝過ごしてしまった。
「陽が暮れてきた…」
ゆうべの晩はあれから、なまあたかい西風が吹き荒れた。
桜はさらに咲きすすんだみたいだ。
『もう五分咲?』
『いやもっといってるんじゃないか』
『満開まであとちょっとね』
桜通りは、今日もにぎやかだ。
(今夜は人通りのおおい道を行こう。みんなと歩いていけば、変なこともおこらない)
駅前を過ぎ川の手前で住宅街ではなく、大きな公団の方へ歩いた。
団地は、さいきんできた。
すべて十五階建て近代的なビルが二十棟。それらが広い公園を囲んでいる。
『ユミカちゃんもお祭りいくの?』
『うん!』
『公園にも金魚すくいがでてたよ』
『射的もあったって』
『じゃちょっとのぞいてからにしようかな』
『いこう、いこう』
小学生が公園の夜店へ走っていく。
公園の大きな道をすぎると、真っ赤な生け垣が長々続いている。ベニカナメモチだ。
春に出る新芽が血のように赤くなるから、ベニカナメモチという。
「赤い生け垣っていうのも……」
正直、ちょっと……と思う。
通りに面した高層団地の目隠しになっているのだろうが、あまりセンスがいいとは思えない。
(でもまあ、たくさんの人がいるから…)
「ねえ」
ふいに足がとまる。
男の声。
「ねえ」
もう一度。
おじさんの声だ。
二メートルはあるベニカナメモチの生け垣の地面すれすれのところに、顔がのぞいている。
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