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おばあさんはにぎやかな道を選んだ。
団地のベニカナメモチの生け垣の前をすぎた。
あのおじさんはいなかった。
(よかった……)
胸をなでおろしたとき、
「ここで、飛び降りがあったらしいわね」
「えっ」
どきっとした。
「見たの?」
「………」
なんて答えたものか。
正直に話せば、頭がおかしいと思われそうだ。
「……救急車を見ました」
嘘はついてない。
たぶん。
「そうかい。その人も無事お迎えと会えたらよかったけどね……ああ!」
おばあさんが、急に声をあげた。
「あそこだわ!」
「え、え、え」
きょろきょろと、先を見渡した。
でも祭りの最終会場の市民公園へ吸い込まれていく人波しか見えない。
おばあさんを待っているような、お年寄りは誰もいない。
と、おばあさんがいきなり大声をあげて、走り出した。
「……ユキちゃん!ユキちゃん!」
「あぶないっ!」
この人混みだ。
うっかりしたら転んでしまう。
おばあちゃんが走り寄った先に、バイクとパトカーが止まっていた。
警察官と大学生風の男の子が立っている。
「……すいません、すいません」
男の子は、平謝りだ。
「……だったから、よかったものの君……」
どうやら、接触事故をおこしたらしい。
おばあさんは、どんどん近づいていく。
正確にいえば、バイクの影のひしゃげたなにかに。
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