第三夜

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「ユキちゃん…わたしだよ」 腰をかがめて、やさしく声をかける。 まばらに毛が生えたおせんべいは、グルルルル…と甘えた声で鳴いた。 「長いあいだ待たせたねえ」 おばあさんが抱きあげる仕草をすると、平たくなった肉塊から飛び出た獣が、その腕におさまった。 「もとはきれいな白色だったんだけど」 薄汚れてあばらの浮いた背中を撫でられ、猫は満足気だ。 「……さあ行こうね」 「どこへ?」 「お嬢さんも、はやく行っておやり。ずいぶんここらも変わったから……」 そういうと、おばあさんは猫といっしょに人混みに消えた。 わたしは、ひとり立ちつくした。 夕日が沈もうとしている。 桜並木は、燃えるようなオレンジに染まっている。
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