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その3・黒い糸くず
はっと気が付くと、もう夜更けだった。
ごんごんする頭と、凄まじく気分が悪いのとで、座り込んだまま、しばらくわたしは自分がどこでどうしているのか思い出せなかった。
ぼんやりとした照明がついている。けれど、重苦しい気分の時には不思議とそうであるように、今この時も、あたりのものはいやにくっきりとした輪郭で迫って来た。
銀の炊飯器。ターンテーブルに乗った醤油と食卓塩と胡椒。
レース柄のテーブルクロス。そして、焼酎の青い瓶。
やっと思い出してきた。ここは梟荘の台所で、わたしは自棄飲みをしてフテ寝していたのだった。
バイトから帰って来た恰好そのままで、飲み潰れてテーブルにうつぶせていた。顔に触ると、ほっぺたにテーブルクロスの模様がごつごつと移っていた。
クルクルポー、クルクルポー。
廊下にある、古風な鳩時計が鳴いている。二時か。
バイトから帰宅したのが10時で、すぐに飲み始めたから、この台所のテーブル席に座ってから、だいたい4時間経っていることになる。尻が痛かった。
じゃらじゃらと玉のれんを掻き分ける音がした。
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