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序・梟荘に住むことになった経緯など
なるほど、この一軒家は一人暮らしをするには広すぎるかもしれない。はじめてこの家を見た時、そう思った。
まだ肌寒い初春、わたしは母から預かった鍵を手に、梟荘を訪れた。これからここに住むのだと思ったら、築20年の平屋建てが妙にとっつきにくく見えた。
梟荘は平屋のくせに、やたら広かった。
庭はきちんと手入れされていて、庭木は未だに雪囲いされていたし、ところどころ欠けている石塀も修繕の跡が見られた。門には「けやき」と表札が出ていて、わたしは余計に緊張したものである。
ここは、よそのうちだ。
梟荘に住むようになってから二か月が経ち、さすがに緊張も解け、ここは自分の住処だと思えるようになってきた。けれど、やっぱりここは自分の「うち」ではない。
わたしの「うち」は、あの狭い木造アパートの一階であり、たった二間しかなくて、冬は給湯器が凍り、夏は変な虫がはびこる、不便で汚いあの部屋なのだ。
広い梟荘に住むようになった今、よくまああんな場所で母と二人で生活で来ていたと思う。けれど、長年あそこにいたせいで、今でもふっと、大学やバイトから変える時、あのアパートの方に足が向きかけることがある。
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