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ep1.SAE
「ねえ、聞いた? また出たらしいよ、線路沿いのところで」
「えー、例の不審者? 新人の子が後付けられたって言ってたやつ?」
「そうそう。昨日、営業の鈴木さんも同じ目にあったんだって」
会社の女子トイレで知っている人の声がすると、個室から出るタイミングに迷ってしまう。
「怖っ。鈴木さんでも?!」
「でもって何よ。あ」
デザイン部の市原さんは、個室から出てきた私と鏡越しで目があった途端、話をやめた。
私は、話題に出ている「鈴木さん」ではない。
二年前に同じ部署にいた人は、私がいると気づくと話の内容に関わらず、未だに気まずそうな顔をする。
「……お疲れ様です」
「お疲れ様です~」
二年近くたっても、よそよそしい空気が続いている。
それは周りの問題ではなく、私自身がそうさせているのかもしれない。
二年前のあの日から、私の時は止まっている――――。
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