白い手

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 太い幹の桜の周囲。馬鹿正直に探していたら、確かに今夜中に見つけるのは難しいだろう。でも、その必要はない。  桜の裏手にまわる。広い敷地にあるどの建物からも太い幹のせいで死角になる。背後は白壁の塀。  ――お前は、私によく似ている。  祖母が言う通りなら。私が穴を掘って何かを隠すなら。人目のつきにくい、こんな夜。この場所に隠す。 「ここか? ……おい、返事くらいしろよ」  黙って地面を指差す私にため息をつきながらも、拓実はシャベルで穴を掘りだした。  その背中を見つめ、私もシャベルを振り上げた。  本家筋のこの邸には、ことあるごとに親戚が集まって来る。制服を着て、お寺でお経を聞いて、昼に邸に戻って来た。今日は誰かの、何回忌かだったようだ。誰の、何回忌だかは良くわからない。  いくつになったのか。もうそんな年齢になったのか。時間が過ぎるのは早い。  年に何度も会うのに、言われることは毎回同じ。  今年はそれに加えて、どの大学の、どの学科に行くのか。この旅館はいずれお前が守っていくのだから、しっかりと勉強しなさい。  そんなことを言われる。私の弟や、従弟の拓実もいる。でも親戚たちの中では一番年長の私が家を、祖母のあとを継ぐと決まっているようだ。     
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