白い手

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「これ、どうするんだ?」  穴から出てきた拓実は慌てて距離を取ると、恐る恐る私の手元をのぞき込む。  空を見上げる。風はまだ強いが、雨はいつの間にか止んでいる。目が慣れている今なら十分に手元が見えるくらい、空も明るくなってきていた。 「ちょ、一言、言ってからにしろよ!」  ボストンバッグの前にしゃがむと、黙ってチャックを開ける。拓実の声に返しもしないで、バッグの中身を漁る。 「骨!? 死体!?」  拓実の素っ頓狂な声に答えるように、濡れた地面にバッグの中身を置いていく。  木で出来た絵具箱、イーゼル――キャンバスを立て掛けるための台。絵具箱を開けると使い古された筆やペインティングナイフ、パレットナイフ、絵具も入っている。 「何、これ」 「画材」  そして、祖母が殺した相手もわかった。祖母の言うとおりだ。祖母と私はよく似ているらしい。 「お風呂が沸いているわよ」  穏やかな声に、ハッと顔をあげる。  そこにはピンと背筋を伸ばし、きちんと着物を着た祖母が立っていた。こんな時間だと言うのに白い髪も綺麗に結ってある。 「庭の手入れのついでに埋めておくように言っておくから。――拓実さん、まずは入ってらっしゃい」     
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