白い手

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 年季の入った絵具箱を撫でる。長い間、土の下に埋まっていたのだ。カビていたり、サビていたりするところはあるが、手入れをすれば使えるだろう。 「えぇ。頑張りなさい」  祖母がきびすを返すのが、視界の端に見えた。頭を下げて、感謝の言葉を口にしようとして、 「どんな人生だったか、私に聞かせてちょうだいね」  その言葉は喉の奥に詰まって出てこなかった。  生温い風が吹く。地面に落ちた花弁がひらりと、私の足元を舞った。  青白い桜の花弁。  私の足首に一本、透けた手が絡み付いたような気がした。
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