白い手

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白い手

 大粒の雨が降っている。風が強い。  夕方からぽつぽつと降り出した雨は、夜には警報が出るほどの暴風雨になっていた。  レインコートを着込んで、シャベルを片手に緩やかな坂道を登っていく。視界も足元も悪い。いつもなら難なく上れるこの坂も、足が滑って思うように進めない。  顔に当たる雨が不愉快だ。拭っても拭っても、すぐにびしょ濡れになってしまう。  黒い土の上をミニチュアの川のように雨水が流れていく。元々、落ちていたのか。この雨風で散ったのか。桜の花びらが雨水に乗って下へ下へと流れていく。 「なぁ、香織! 本当にやるのかよ!」  従弟の拓実が大声で尋ねる。 「いやなら着いてこなくていいって言ったじゃない」 「こんな天気のときにお前一人なんて危ないだろ!」  拓実は優しいなぁ、と自嘲気味に思いながら足を止める。強い風に満開に花をつけた枝を揺らす桜を見上げた。  我が家の広い庭の奥に一本だけ植えられたソメイヨシノ。夜と悪天候による闇の中、白い花がぼんやりと浮かび上がっている。  樹齢はどれほどなのか。ごつごつとした幹は学校や街中で見かける桜の倍以上はある。 「二人で探しても見つかるか、あやしいけど……」     
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