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がちゃがちゃとタイガが食器を洗っている横で、カズヒサが立ったままつまみもなしにビールを飲んでいる。
「あ、いいなー」
「お前も飲んだらいい」
「なんか今日は酔っ払っちゃいそうです」
「いいだろ、明日休みだし」
「いいですかね」
「構わんだろ」
飲んじゃお、といってタイガが食器を洗い終わった手を拭くと、飲み物用の冷蔵庫からビールを1本取り出す。プシュ、とプルタブを開けると、ごくごくごく、と旨そうに飲んだ。
「っあー、旨」
「なんかつまみになりそうなもんあったっけ」
「あ、カマンベールチーズがありますよ」
「ああ。じゃ、それ切るか」
「だいじょぶです、切れてるヤツですから」
「おー、いいタイミングだな」
バコ、と冷蔵庫を開けてカマンベールチーズの箱を取り出す。びーっと箱を開けると、プラ容器に入ったチーズを取り出すべく、セロファンの蓋を剥がした。カズヒサが新しいビールの缶をふたつ持つと、その後ろにカマンベールチーズを持ったタイガが続く。テーブルに並んで座って、タイガがカマンベールチーズの包み紙をぺりりと剥いて、ひとくちぱくり。
「美味しいですねえ」
ぐびぐびとビールを飲んで、プハア、と息をつく。
「今度はブルーチーズも買っとくか」
「いいっすね!あれのパスタが旨いんですよね」
「ああ、旨いな。ロック・フォールとか、スティルトンとか、買いに行くか」
「両方旨いけど、ちょい高いですよね」
「まあ、ちょっとだけな。そんなに気にするほどじゃないよ」
ごくごく飲んで、パクパク食べて、すっかりいっぱいだったはずの腹が、また満たされていく。
「──お前、手え荒れてんな」
ふ、と気がついたようにカズヒサが口を開く。洗い物全般をほぼ請け負っているタイガの手は、すこしかさついている。
「にゃ?ほーれすか?」
飲んでいるせいか、口のよく回らないタイガが、ほやーと笑う。
「ペタガードあったよな」
戸棚の中をごそごそして、白いプラスチックの円形のケースを取り出す。
「ほい、手え出せ」
ぱか、とフタを開けて爪の先程の少しをすくいとる。
「んー、いいれふよう」
「いいから手え出せ」
「ふぁい」
かたん、と缶を置くと、両手を出す。ビールで血行がよくなったのか、ほんのり赤い。
「ちょっとじっとしてろよ」
「ふぁい」
ヌリヌリとペタガードと言うワセリンの感触を軽くしたようなクリームを塗っていく。
「……ふふ」
「なんだ」
「これ、ちょっとエッチれふね」
「お前はなあ」
「らって、がっつり手ぇ絡み合ってんれふよ。エッチれふ」
「あー、エッチでもなんでもいい、これでその手荒れが治るから」
あたたかな手と手が絡み合いスリスリクリームを塗り込んでいく。確かにエッチかもなあ、とカズヒサも酔った頭でそう考えながら、とにかく荒れた大きな手を労るようにしていた。
「はい、終わり」
「えー、もうれふか」
「塗ったろ」
「そうれふけろお」
「1分くらいなんにも触るなよ、ベタベタするから」
「ふぁーい」
手をプラプラさせて、ごく幸せそうににへ、とタイガが笑った。
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