第一章 罪

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日の光。 ふと目が覚める。朝だ。 下腹部にいつもの違和感を覚え、日常の始まりを噛み締める。二三伸びをし、立ち上がり歯を磨き朝飯もそこそこに靴を履き玄関を出、家の前の坂道を下って三本目を左。朝の日射しが気持ちいい。おはよう、今日も早いねえ。朝から精が出ますね。おじちゃんおはよう。はいおはよう。鳥のさえずりを半開きの口で聞きながらしばらく歩く。見えてきた。閑静な住宅街にして大胆に土地を使ったこの公園。一角には太くて長い樹があり、この時期には豪勢な桜の花を咲かせるのだ。 暫し目を閉じ、360度に押し寄せる緑の香りに浸る。ゆっくり深呼吸をかましたのち、木に背を向ける。右見て、左見て、もう一度右。誰もいない。よいしょと一息でしゃがみ込み、慣れた動きで下半身を露出する。風も人目も木々に遮られ、丁度朝日だけがスポットライトのように当たるベストポジション。まだ肌寒いこの季節でもあまり寒さを感じない。今日も今日とてグググと胎動するものがある。雷雲の如き腸の躍動が始まる。この黒雲がやがて土砂降りの雨を降らせるのだ。 腸全体が電気信号の呻りを上げる。さあ、雷が落ちるぞ。腸括約筋の緊張が最高潮に達する。一陣の風、小鳥の飛翔、木々の蠢動。ズズッ、ムムムム、ゴロゴロ、ドッシャーン。一閃、翔ける稲妻。草花は嬌声を上げ、烏の啼く音が絶えず聞こえる。耐えろ。今はただ。その逆境すらやがては肥やしとなり、また新たな生命を育むのだ。菊門にて激烈な余韻を感じ、やがてゆっくり、ゆっくりと全身が弛緩する。その表情の恍惚たることといったら。吾はこの無限に引き延ばされた刹那の為に生を受けたのだ。身が、心が、母なる大地に包み込まれてゆく。万物が子守唄のように語りかけてくる。
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