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「ぐっ!」
「放せっ、バカっ!!」
君が怒る。
「……い、やだっ!絶対イヤだっ!」
僕は必死になって君の手首を掴んでいた。
魔物の森の奥深く、戦闘中投げ出されて落ちた大地を這う大河を流れ、溺れまいと一方の手は岸辺から伸びる蔦を握り締めていたんだ。
流れに身を任せれば、絶壁を伝い水圧で出来た深淵の中へと押し込まれて内臓を砕かれる道を辿る。
それを避けるために、激流に逆らい陸を目指すために細くてもしなる草を頼り、僕の後を追って傍らを流れ行く君の腕を掴んだ。
ズルリと蔦を握る手が滑る。
君は、泣きそうなほど歪んだ顔で僕を見ていた。
「……お願いだ……生きろっ!」
「?!」
そう言って君は一滴の涙とともに僕の手に僅かな痛みを与え、僕の前から一瞬にして消えた。
僕は重りを無くして流れに沿い、振り子のように水に揺られて大地に触れた。
痺れを感じる手の感触が君の存在を知らしめていた。
それは、濡れて冷たくなった自身の体感によるものではなく、鼓動の早さに生を感じていただけでもなく、陸によじ登り呼吸を整える間中、僕は瞬きもせず全身で震え続けた。
半身だと思うほどに、親と過ごすよりも長く共に居た君を失った喪失感を味わい、涙も出なかった。
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