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「まずは左────」
軽く一閃をひいて左翼を切り落とす。
耳障りなダミ声が辺りに轟く。
「次に右────」
上空で体を捻り下降速度を味方に剣閃を描く。
血走った目玉が捕らえてくる前に地上へと両足が着く。
「両手を失ったな……次は足」
叫び声を上げる嘴の中から目も眩むほどの光が吐き出されるのを確認。
丸々と出っ張る腹の下に向かい駆け出し、剣を薙ぐ。
断絶し揺らぐ両足の間から背後へと抜け出た直後に反転し、巨鳥の姿を目視しつつその背を駆けて後頭部を踏みつけた。
「返せ……それは僕の命だ」
前のめりになる巨鳥を横倒しにするため、側頭部に力を込めて剣を奮う。
支えを無くした塊はそれでも足掻いて攻撃を仕掛けようとしたが、それは儚くも呆気なく煙りとなって漂った。
「他愛ない……君が万全なら、こんなヤツに……」
愚痴を漏らしても虚しいだけだ。
息絶えた巨鳥の胸に浮かぶ人面を確認しようと近付くが、それらは主の命の消失と同時に消え失せていた。
「……判っていたことなのに」
すでに存在などしていなかったモノなのだ。
ただ、オブジェとされていただけなのだ。
君はもういないのだ。
僕の頬を温かいモノが初めて流れた。
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