猫を洗ってくれませんか?

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 お父さんの都合で私は6月なのに転校をすることになった。  学校の子たちは普通に迎え入れてくれたけど、すでに仲良しグループが出来上がっていて、私の入る場所が見つからなかった。 (元の学校に帰りたいな)  せっかく仲のいい子と同じクラスになったのに離れてしまったのが悲しかった。  1人で家に帰っていると、どこからか鳴き声が聞こえてきた。 「にゃー」  猫の鳴き声だと気付き、どこにいるのか探す。 「にゃー」  声はするのに姿が見えない。  なぜか地面のほうから声がする気がして、目線を低くして探すと、側溝から猫の声がすることに気づいた。  ガサガサと側溝にかかった草や土を払うと、小さな猫がいた。 「にゃ~」 「どうしたの? お母さんは?」  尋ねても猫は答えてくれるはずもなくて、ただ、にゃーとだけ鳴き続けた。 「とにかく助けてあげるね」  私はランドセルを置いて、猫を助けるため側溝に入り……。 「あっ!」  側溝の中にあった泥に足を取られて、転んでしまった。 「……あーあ」  ズボンの下が泥で汚れてしまった。 「みゃ~」 「大丈夫。今助けてあげるから」  抱き上げると、子猫もその泥で汚れていた。 「どうしよう。どこかで綺麗にしないと」  でも、うちのマンションは動物を入れられないし、公園で洗うとなると水が冷たそうで怖い。  ひとまずランドセルを拾って背負い直し、途方に暮れていると、知らないおばさんに声を掛けられた。 「あらあら、大丈夫?」  うちのお母さんよりちょっと年上のおばさんが心配そうに私を見ていた。 「転んじゃったの? 怪我は?」 「あ、怪我は全然ないんで大丈夫です」  見ず知らずの私に声を掛けるなんて、きっとこの人は人がいいんだろうと思って、私は子猫を見せた。 「あの、お願いです。猫を洗ってくれませんか?」 「猫? あら、この子も汚れてるのね」 「うちはマンションで、動物は持ち込み禁止なんです。エレベーターでバレたら怒られるし」  お願いしているうちに、段々と図々しいかなと不安になった。  でも、おばさんは断らなかった。 「いいわよ、うちにいらっしゃい」 「ありがとうございます」  私がおばさんに猫を渡そうとすると、おばさんはそのまま歩いて行ってしまった。 (あれ?)  猫を洗ってくれるんじゃないのかなと思いつつ、私はおばさんについていった。
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