桜の別れと、あの日の告白

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 桜の木には、不思議な力があると言う。 「桜の下で告白すると、二人は永遠に幸せになれる」とか、「綺麗な桜の下には、死体が埋まってる」とか。  死ぬ程くだらない。富里大貴は心の底からそう思う。  だって事実何もなかったのだ。  小学生の頃、桜の枝を折った事を正直に告白した。普通に怒られた。  中学生の頃、ずっと憧れていた部活の先輩に桜の下で告白した。普通に振られて、それから連絡も着かない。  高校になってこの木の下を掘り返した時には、犬の骨が見つかってちょっとした騒ぎになった。  そうして大学生の今、同じ桜の木を見上げて思う。「どうせ不思議な力なんてある訳がない」と。 「あ、今つまんないって思いました?」 ──どうせそんなもんだ、世の中なんて。このまま何となく卒業して、就職したら毎日働いて、そんな風に当たり前にしか過ぎない毎日。うんざりだった。 「あのー、聞こえてます? 無視しないで欲しいんですけど……」  この桜だって今は綺麗でも、すぐ葉っぱになって他の木と見分けもつかなくなる。それで、冬には全部散ってまっ裸にな―― 「ななな、何考えてるんですかえっち!!」 「あだっ!?」  瞬間、後ろ頭にざくりと鋭い痛み。  何だよ、胸の内で悪態をつきながら振り返り──そして、凍りついた。  変な女がいた。  彼女は何かをフルスイングで投げた体勢で、なぜか顔が真っ赤で、肩でぜーはーと息をしていた。服装はノースリーブの白いワンピース一枚。流石に袖なしは早いだろうに、寒くないんだろうか?  しかし何より、富里の目を引いたのは。  その背中まで伸びたロングヘア。  それが桜色とでも言うのか、淡くピンクがかった見事な銀髪だったのだ。
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