目が覚めたら

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目が覚めたら

 目が覚めたら推しがいた。  正確には推しと同じような輪郭、鼻、口といったパーツだったので、推しであるはずだ決め込んだ。目は閉じられているので分からないが、この距離で目があったらたぶん死ぬのでむしろありがたかった。  確か昼寝をしていて・・・。床で寝転がっていたはずなのに、どうしてベッドで寝ているのだろうか。彼女は床に座って、手を枕にして頭を乗せていた。こちらを向いているお顔はとても尊かった。じゃなくて。  とりあえず起き上がってみる。これは夢だろうか。そのあたりに落ちているスマホを拾う。時刻は夜の7時過ぎで、どうやら3時間ほど寝ていたようだ。新着メールが来ている。アプリも起動できた。これが夢なら余りにも現実的すぎる。  改めてそちらに目を向けると、やはり推しだった。  ライブで様々な表情を見せて、バラエティでは全力でがんばる。その動きや表情には目を奪われた。  そんな彼女が、目の前にいる。  急にドキドキしてきた。すらーっと長くてきれいな指は輝いていたし、髪はさらさらしていた。いや見てるだけなんだけど。  触ってみてもよいのだろうか。いや、触れさせていただいてもよいのだろうか。でも、なんだか触れた瞬間に状況が変わりそうで怖い。ゲームなら確実にイベントシーンが始まる場面だ。    それでも、もう近づくことは止められなかった。ゆっくりと指先を伸ばす。幼い頃、枝先に止まった蝶を捕まえようと、気付かれないように後ろから呼吸を殺して近づいたことをふと思い出した。  あの後、どうなったっけ。  指先が触れた。  そうだ、触れた感触とともに、蝶は飛び去ったのだった。  暗くなる視界の中で、相も変わらず彼女はそこで目を閉じていた。
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