わたしのいろ

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 太陽と風はわたしを成長させるけれど、色づかせるのは、もっと、別の…… 【いろ】  人はわたしを植物と呼んだり、木と呼んだり、桜と呼んだり、ソメイヨシノと呼んだり、なんやかんやと忙しい。それはわたしにとって全く大切なことではないのにね。  わたしのことはわたしが一番よく知っているの。この場所で、数え切れないほどの季節を越えてきた。その経験は呼び名左右されたりしない。人は何かと名前を付けるのが得意だけれど、『わたし』は纏めて一括りにした言葉なんかで表現できるような『桜』じゃないわ。だって、わたしと同じ色の花を咲かせるお仲間に会ったことなんてただの一度もありはしないもの。  痛いくらい冷たい風が徐々に暖かくなってきたら、わたしは枝に自慢の花を咲かせる。蜜を求めて鳥が集い、日向ぼっこのついでに猫が集い、花を眺めるために人が集う。目立たない小さな公園の、真ん中に根を下ろしてからもうずいぶん経つけれど、ここで花を咲かせ、散らせ、葉を纏い、落とす繰り返し。もちろん飽きたりはしないわ。同じことなんて起こらない。わたしは毎日いろんなことを見聞きして、蓄えているのだから。
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