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その眼に写るものもは全てがコマ送りのように見えた。ついさっき掴んだ腕を胸もとで抱えて、ゆきなが血の気のひいた顔をこちらに向けている。少しだけ車両の運転手と目が合ったと感じた。烏色の長い髪が車両のヘッドライトに照らされてキラキラと光る。
『ゆきなちゃん…亜希ちゃん………お母さん…』
くぐもったような《りんごちゃん…!!!!》と叫ぶ、さっきまで隣にいたはずの亜希の声がブツリと途切れて、フッ…と意識の全てが真っ黒になった。何もない、自分の心臓の音も耳鳴りもすらも聞こえない、真っ黒になった。
「わたし……」
死んでしまった…と、続ける前に、かすかに呼び掛けるような言葉が聞こえた。
『あなた。』
「(だれ……?)」
ぽうっとぼんやり赤い光が浮かんで見えた。そこから聞こえた声は少しずつ近づいてくる。友達を庇って鉄の塊に壊された体は、その二本の脚で暗闇に立っているようだった。
『ねぇあなた。』
あの光は天国への入り口だろうか、と考えながら無意識にそちらに集中し、気がつけば返事をしていた。
「…わたし…?」
「そう、貴女」
貴女よ、とこんどはハッキリと聞こえた。そしてぼんやりとした光は目前で像を成して、小さな人の形になった。
「貴女は可能性に選ばれたわ。でも、本当に未来を選ぶのは貴女自身。」
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